2019年の推計出生数が過去最少の86万人となり、日本の少子化に歯止めがかからない。安倍首相は「少子高齢化は国難だ」と語り、政府が20年5月に閣議決定した「少子化社会対策大綱」では、1人目の子供を産んだ女性の継続就業率を70%にすることや保育所の待機児童を20年度末に解消することなどが掲げられた。<図1>
自治体や民間事業者の積極的な取り組みにより待機児童数は減少傾向ではあるが、地域格差や政府目標も未達成であることから、共働き世帯の安心にはつながっていない。
未来を担う次世代のために土地活用でもなにか貢献できないものか。そうしたオーナーの間で、選択肢のひとつとして保育所が注目を集めている。運営事業者に長期に土地と建物を貸すことで、安定した収入が得られると同時に、待機児童問題の解消に役立ち、地域に貢献することができるというのだ。
ただ、「保育所で土地活用」といわれても、ほとんどのオーナーはぴんとこないだろう。これから紹介する成功例を通じて、地域貢献にも寄与する新しい土地活用についてぜひ学んでいただきたい。
(YOMIURI BRAND STUDIO Creative Editor/Writer 二居隆司)
今回紹介する千葉県市川市の認可保育所は、定員70人の中規模保育所で、2018年4月にオープンした。それまで賃貸アパート、商業施設、医療・介護施設など、さまざまな形での土地活用を全国の土地オーナーに提供してきた三井ホームが、新たな土地活用法として取り組んだ、保育所の事例を紹介する。
担当の同社千葉コンサルティング営業部営業グループ主任資産活用アドバイザー・小林賢一郎さんは、その経緯を次のように説明する。
「オーナー様に有効な土地活用をしていただけるよう、常に新たな活用法を模索していくなかで、各自治体で保育所の待機児童が問題となっていることに着目し、まず千葉県四街道市で、最初の実績をあげることができました。引き続き、認可保育所の運営事業者を公募している自治体をリサーチしたところ、市川市で公募していることがわかり、それに応じていただけるオーナー様と事業者を探し始めたのです」
同市内で土地活用を検討しているオーナーに何人かあたった末、長く地元で商売を営み、複数の土地を所有しているオーナーが興味を示してくれた。
「主に賃貸アパート経営を行っているオーナー様だったので、まったく思いもよらない提案だったと思います。ただ、土地活用の経験が豊富な方で、なにか新しい土地活用をしてみたいと思っていらっしゃったのと、保育所を建てることで地域貢献になるということで、興味をもっていただけました。ちょうど市川市では、2016年度から3年連続で待機児童数が県内ワーストということで、市政の喫緊の課題になっていた時期でもありました。最終的な判断をくだす材料として、賃貸アパート経営との違いを知りたいということで、その点について詳しくご説明させていただきました」(小林さん)
その仕組みは、以下の通りだ。
まずは、土地オーナーと事業者が20年間の定期借家契約を結ぶ。これによって、オーナーは想定外の突発的なことが起きない限り、安定した賃料を長期間確保することができる。20年間通しての契約なので、賃貸アパート経営のように、入居者の入れ替わりや、それにともなう空き室期間の一時的な減収や賃料の値下げという事態を避けることができる。
また、このケースでは、自治体の公募案件ということで、保育所の建設費用はオーナー負担なのに対して、内装については、事業者が自治体からの補助金を利用して行うのに加え、開園後の維持管理も事業者責任なので、オーナーの負担は大幅に軽減される。
さらに、事業者として選ばれるには、自治体の方針に賛同し、かつ事業を遂行するに足る経営基盤があると自治体が判断した事業者に限られる。今回、三井ホームがオーナーに紹介した事業者は、全国で保育所を運営する大手企業ではあるが、自治体のお墨付きをもらうことで、オーナーはより一層安心できるわけだ。
いいことずくめのような仕組みだが、まったくリスクがないわけではない。どのようなリスクがあるのかと、それをどう回避するかについて、小林さんは、こう説明する。
「事業者がなんらかの事情で、保育所の運営を続けられなくなったときに、容易に次の事業者を見つけられないというリスクはあります。そのリスクを避けるために、オーナー様と事業者の双方に納得いただいた上で、互いのリスクの軽減可能な項目を契約の中に折り込んでもらえるよう、わたしどもからご提案、ご調整させていただいています」
オーナーに対してはもちろんのこと、パートナーとなる事業者に対しても手厚いソフト面でのサポートに加え、ハード面でも三井ホームの強みが生かされている。小林さんは、こうアピールする。
「鉄筋コンクリート造にはない、木造のぬくもり、やわらかさは、保育園児にやさしいと、とても好評です。また、長年の戸建注文住宅で培った経験と実績があってこそ実現できる自由度の高い間取りや、たとえば今回の場合、保育園児を子にもつ若い世代の保護者の方に安心していただけるよう配慮した内装の提案力も、高く評価していただいています。もし、保育所での土地活用をお考えのオーナー様がいらっしゃるなら、ぜひ三井ホームにお声がけいただければと思っています。これからもオーナー様の期待に応え、安心してお任せいただける土地の有効活用をご提案していきます」
お客様のために常に新しい土地活用を探し求めて、オーナーをはじめ関わるすべての方に対して万全のサポートを提供する、それが三井ホームの変わらぬスタンスである。