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「介護・医療から看取りまでワンストップで応える施設」 「自宅のように快適な空間」 プロが出した答えとは? “愛着のある土地を愛される場所にする”プロフェッショナルたち |
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2020.11.10
多くの土地オーナーから「土地活用のパートナー」として選ばれ続けている三井ホーム。土地活用のプロフェッショナルである同社営業担当者へのインタビューを通じ、三井ホームがパートナーとして選ばれる理由をひも解く本企画。今回は、東京都東久留米市にある住宅型有料老人ホームと有床診療所の複合施設の建築を請け負った事例を紹介する。本件を担当した埼玉コンサルティング営業部長の伊藤隆博氏と、施設事業本部コンサルティング第二営業部 営業グループ マネジャーの田子元彦氏に話を聞いた。
東京都東久留米市にある滝山団地は、1960年代に整備された歴史ある大規模住宅団地だ。その滝山団地の向かいに2020年1月、介護と医療にワンストップで応える複合施設がオープンした。住宅型有料老人ホーム「アルゴの家 東久留米滝山」と有床診療所「黒目川診療所」だ
田子 施主は医療法人グループG会さまです。理事長のMさまを中心に医師が集い、埼玉県朝霞市や東久留米市などで訪問医療をメインにしながら、地域に根差した医療と介護のサービスを提供してきました。医療法人グループ理事長のMさまと医療法人グループ介護事業者代表取締役のAさま、そして弊社は、埼玉県内で実施している医療や福祉に関する勉強会を通じて知り合いました。
田子元彦氏
Mさまは、介護と医療を両輪で運営していく一方で、それだけではどうしても最期の看取りまでケアすることに限界があると感じ、有床診療所と住宅型有料老人ホームが一体となった複合施設の構想を持つようになったそうです。通院もでき、訪問診療・訪問介護もしてくれる医療体制に、入院できる有床診療所と看取りまで行う住宅型有料老人ホームを兼ね備えることで、その地域の人々の暮らしに一生涯の安心を提供したいというわけです。
伊藤 最初にその構想についてお話をいただいたのは、2017年7月のことでした。元々、東久留米市で医療グループG会さまの介護事業者株式会社Hさまが介護サービスを提供していたのですが、それは別の事業法人が所有する施設に、運営事業者として参加する格好でした。滝山団地は50年以上の歴史があり、多くの高齢者が暮らしている一方で、東久留米市には大きな病院が一つしかないなど高齢者に対する地域包括ケアの観点からいうと、決して恵まれた環境ではありませんでした。そこで複合施設を作るのであれば、ぜひ東久留米市周辺でという思いがあったようで、当初は土地を探してほしい、というご依頼でした。
伊藤隆博氏
いろいろと手を尽くすも、なかなかふさわしい土地を見つけることができないでいたところ、2018年3月にG会さまから東久留米市で理想的な土地が見つかったという連絡を受けました。駐車場だった場所で滝山団地の目の前に位置する、1,000㎡超の土地です。その土地をG会さまの介護事業者株式会社Hさまが購入することになり、改めて弊社は建築の相談をお受けしました。
理事長のMさまには、当初から木造建築というお考えがあったようです。木造の施設建設は弊社の得意とする分野。主に私の部署と弊社グループの三井ホームデザイン研究所で初期対応を進め、契約段階から田子の所属する施設事業本部がメインで担当することになりました。
田子 木造建築で1階が診療所、2階と3階が老人ホームというのは最初から決まっていました。設計プランのリクエストとして、まず有料老人ホームは賃料をできるだけ抑え、所得に関わらず一人でも多くの方が入居できるようにしたいといわれました。東京都の条例で有料老人ホームは、一部屋13㎡以上という設置基準のガイドラインがあります。ただ13㎡の部屋はそれなりに広く、その分賃料も高めの設定にせざるを得ません。
「アルゴの家 東久留米滝山」の居室。部屋のサイズを小さくし、その分リーズナブルな料金設定を実現した
伊藤 何とか小さな部屋も作れないかということで、G会の方と一緒に東京都にヒアリングに行ったり、東久留米市に相談したりしました。その結果、部屋の広さを調整し、部屋数を増やせたことで、リーズナブルな賃料設定にできるめどが立ちました。
田子 なるべく早くオープンするため工期を短期間にしたいというご希望もありました。そのために今回は、あえて敷地面積をフルに使い切るのではなく、Ⅰ期・Ⅱ期工事計画を含めた、設計工期を短縮できる計画を提案させていただきました。
こうした行政の指導要綱や開発条例等の規制がある中、居室数確保や工期の短縮、限られたスペース内での医療と介護施設の効率的なレイアウトなど、施主さまの要望に応えるため、三井ホームは行政と密に交渉しながら、プランニングを進めていった。2019年3月に建築がスタートし、同年12月に「アルゴの家東久留米滝山」と「黒目川診療所」は完成した。
伊藤 建物全体に木のぬくもりを感じられる施設になったと思います。これは鉄骨造・鉄筋コンクリート造にはない木造建築ならではの魅力といえるでしょう。また歩行の感覚もまったく異なります。どうしても鉄骨造・鉄筋コンクリート造は床が硬くなってしまうのですが、木造に硬いという感覚はなく、歩いても長時間立ちっぱなしでも疲れにくい特徴があります。
「アルゴの家 東久留米滝山」の3階食堂。暖かな外光と木のぬくもりの中でくつろげる開放的な空間
「アルゴの家 東久留米滝山」の2階のスタッフルーム。2階は3階に比べ明るい木目調で統一
特に老人ホームの入居者さんは、転んで骨折などをしたら大変です。ケガや事故を防ぎやすいのも木造建築のメリットです。この施設に勤務するドクターや介護士さん、スタッフさんにとっても疲れにくく、体にも優しい材質といえます。
自宅が木造建築の方にとっては、同じ木造の「アルゴの家 東久留米滝山」なら自宅の延長線上で暮らしていただけると思います。自宅と同じ快適さを確保するために、部屋数の割に浴室が充実しているのもこだわった点です。
2階の機械浴室
3階の浴室
田子 2階と3階は部屋数をたくさん取るために、いずれも中央にスタッフステーション、南側に食堂という配置にし、両サイドに居室を設けるレイアウトにしました。設計担当者や施主さまとも議論を重ね、これが最も効率的な配置だという結論に達しました。行き止まりのない回遊動線なので、部屋数が多くても巡回しやすい構造になっています。
1階の診療所は、病床と外来のスペースを鉄扉で区切り、スタッフの動線も含めてきっちり分かれる間取りにしました。難しかったのは厨房の位置ですね。2・3階の老人ホームの食事も1階の厨房で作るため、厨房のスタッフさんには独自の独立した動線が必要になります。役所の指導なども考慮しながら試行錯誤し、効率的な間取りになったと思います。
外観に関しては、「病院や老人ホームらしくないようにしてほしい」というリクエストでした。そこで道路側の正面にこの複合施設の顔となるダークブラウンの壁をつくり、一見すると木造建築には見えないモダンな印象を与える工夫をしました。さらに建物自体も3色のパターンで構成し、落ち着きと品のある外観を追求しました。
3色で構成した外観
インテリアにもMさまのこだわりを反映させました。1階の診療所は清潔感を重視し水色と白を基調に明るい空間に。2・3階は間取りがほぼ同じなので、どちらのフロアにいるのか雰囲気でわかるようにしたいということで、2階は明るい木目調、日当たりのいい3階は、落ち着いた木目調の高級感のあるデザインで差別化しました。
1階の待合室。ブルーを基調に清潔感を重視した空間に
開設前の内覧会には、地域住民を中心に400人以上の人が訪れた。「近隣の挨拶にお伺いした時から地域の方々に期待されていることを実感していました」と田子氏は振り返る。政府が掲げる地域包括ケアシステムとは、人生の最期まで住み慣れた地域で自分らしい生活を送れるよう、医療や介護の体制を整備することに他ならない。「アルゴの家 東久留米滝山」と「黒目川診療所」は、まさにそれを体現する施設といえる。
田子 地域包括ケアシステムを実現するこの施設では、体調を崩されたら外来で診療所をご活用いただき、もし訪問診療が必要になれば在宅で訪問外来・看護・介護をお受けいただけます。外来や訪問診療での十分なケアが難しくなった方には、有料老人ホームへの入居をご案内できます。入居された後も診療所で診察を受けたり、必要なら入院して治療を受けることもできます。最期まで安心してお過ごしいただけるように、看取り介護も行っています。
三井ホームは、住宅メーカーですので、こうした医療施設なども住宅の延長線上で考え、建築しています。だからこそ、今回のように「入居者が自宅で過ごすのと変わらない快適さを確保できる施設にしたい」というオーダーにも応えられたと思います。地域包括ケアシステムの受け皿となる施設には、「住まいづくり」の発想やノウハウ、知見が不可欠といえるのではないでしょうか。
三井ホームでは、医療施設や介護施設以外にも、保育施設や商業施設など、木造の施設建築の分野で多くの実績を持つ。田子氏は「もっと木造の施設建築の可能性を広げたい」と意気込む。
伊藤 環境への配慮が重視される昨今では、木造建築のメリットが改めて見直されている側面もあります。特に大規模な施設ではなく、低層の中規模の施設、例えば学生寮・社員寮、コンビニエンスストア、自治体の庁舎など木造ならではの魅力が生きる施設はまだまだあります。
田子 木造建築は、鉄骨造や鉄筋コンクリート造と比べて建築コストが抑えられ、工期が短くできます。建物は長期的に利用できる構造にも関わらず、税法上の減価償却期間が短いです。そのため経費として計上ができ、キャッシュフローが良くなるという実利的なメリットが大きいのも木造のいいところです。環境にもやさしい木造建築の可能性をこれからも追求していきたいですね。