大屋根を木造トラスで
無柱の大空間に架け渡す

構造上の課題は
異種材料の併用で対応

INDEX

三井ホーム株式会社
施設事業本部 設計部
設計グループマネジャー

玉井 一行

※撮影当時の部署を記載しています。

中大規模木造建築の普及に向けた取り組みを三井ホームが加速化させている。グループ内の木構造ファブリケーターと経営統合し、製販一体の体制を構築。それに併せ、木構造に関する設計相談や部分請負など、社外への技術提供にも力を注ぐ。同社は今、どんな技術力を有するのか。設計・施工監理を担当したインターナショナルスクール「Rugby School Japan」の食堂棟を例に紹介する。

つくばエクスプレスの柏の葉キャンパス駅に近い千葉大学柏の葉キャンパスの一角でインターナショナルスクール「Rugby School Japan」が2023 年9月に開校した。既存建物を改修した校舎群と新しく整備された国際規格のラグビー場の間に新築されたのが、食堂棟だ。施工主は三井不動産。設計・施工監理は三井ホームが担当した。
水平力を負担する鉄筋コンクリート(RC)造の外壁を南北2カ所に配置し、その間に大きな屋根をアーチ状に架け渡した造り。東西の側面はガラスカーテンウォールで構成する。

主役は、アーチ状の大屋根架構には木造トラスを採用

圧巻は、木造トラスの屋根架構。長手方向に約26m スパンで架かり、天井高は最高約8.1mに達する。直下には500㎡以上の無柱空間が、ダイニングホールとして広がる。
学校の母国である英国の建築様式を取り入れ、左右対称性を打ち出した権威的な平面構成。大屋根を浮かせ、トラスとガラス面を強調した斬新な空間構成。建築のコンセプトに据えた『伝統と革新』を、ここで表現する。
この屋根こそ、設計を進めていくうえで第一に考えていたものだ。三井ホーム 施設事業本部 設計部 設計グループ マネジャーの玉井一行氏は、その考え方をこう説く。
「想定していたのは、校舎群とラグビー場の中間領域にテントを張り、みんなで食事する、というイメージ。柱や壁には頼らない空間です」
主役は屋根。上から見られることを強く意識する。「周囲の校舎からは日常の風景として見えます。それだけに、目障りにならず、それでいて認知されるように、スカイラインを抑えた緩やかな弧を描く形を想定しました」(玉井氏)。
その屋根を木造トラスで支える造りを採用したのは、環境配慮による脱炭素社会実現への貢献という観点から木材の利用が求められたからだ。
とはいえ、純木造は必ずしも建築主の意向ではなかった。予算を考慮したうえで行き着いたのが、RC造と木造を組み合わせたいまの造り。外壁部分は木造の1時間耐火仕様で構成できたものの、玉井氏はその採用を次の理由から見送ったという。

下弦材に鋼材を組み合わせRCとの接合部も汎用品で

「木材利用を強調しようと木質化を図るには耐火被覆の上からさらに木材を張る必要があります。しかし、一度被覆した木材をまた現すのは、自己矛盾です。さらに学校施設であることから重要度係数は1.25を用いますが、その場合の地震力に木造では対応しにくかったという事情もあります」
木造トラスで屋根を支え、無柱空間を生み出す造りは、三井ホームでこれまでいくつも手掛けてきた。畜舎をはじめ、大型ショッピングセンターや倉庫などで、設計・施工の実績を持つ。
ただこの食堂棟では、それまでとは異なる使い方。長手方向に橋梁のように、複数のトラスをアーチ状に左右対称に架け渡す。建築コンセプトを意匠と構造の両面から追求した格好だ。
そこで生じる構造上の課題には、異種材料の組み合わせで対応した。
1つは、トラスの下弦材。「反り返りが大きいため、引っ張り力の負担に鋼材を用いました。トラスと鉄の組み合わせも『伝統と革新』という建築コンセプトの表現です」(玉井氏)。部材には一般的な、ターンバックルを用いる。
もう1つは、外壁RCとトラス木部の接合部である。ここではRCに既製品のガセットプレートを埋め込んだうえで、トラスの木部で挟み込み、ドリフトピンで固定する造りを採用した。ここで用いた部材も、汎用品だ。
木造トラスは真ん中の1本以外、立ち上がり部分に水平方向・鉛直方向の角度がつく。それだけに、接合部に集中する応力のコントロールが課題。「その課題に汎用品で対応した点に構造設計上の価値があります」(玉井氏)。

門戸開放が、社会的な使命実績の積み重ねに技術提供

脱炭素社会実現への貢献という観点からは環境認証を得ることも求められ、「ZEB Ready(基準1次エネルギー消費量から50%以上を削減した建築物)」の認証を取得した。
断熱性を高めるため、屋根材の下地材には独自の断熱構造材「ダブルシールドパネル」を用いた。発泡成形ポリスチレンをOSB(配向性ストランドボード)で挟み込んだ部材。高強度・高断熱を掲げる。ガラスカーテンウォールはLow-E複層ガラスで構成した。
一方、空調設備は高効率のものを導入する。「ただ、大空間の中で空気の循環をどう確保すればいいか、その手法には頭を悩ませました」と玉井氏。最終的には設備設計からの提案でソックダクトを取り入れる。ダクト全体から気流を生じさせる不織布製のものだ。
中大規模木造建築物の黎明期ともいえるいま、長年にわたってその設計・施工を手掛けてきた三井ホームとして、業界に門戸を開いていくことこそ、社会的な使命と受け止める。目指すのは、中大規模木造建築の普及。木という材料を特別視せず、一般的な部材や規格で構成することを良しとする。
建築界にいま求められるのは何より、実績の積み重ねにほかならない。「部材だけでなく、技術まで提供していくことこそ、私たちの役目だと考えています。この食堂棟でまず木の可能性を感じてもらえれば本望です」と、すそ野の広がりに期待を寄せる。

建築概要

  • Rugby School Japan 食堂棟
  • 所在地:千葉県柏市柏の葉6-2-1
  • 建築面積:1,248.02㎡
  • 延床面積:1,468.33㎡
  • 工構造:鉄筋コンクリート造 一部木造(屋根構造 木造トラス)
  • 施工主:三井不動産株式会社
  • 設計・施工監理:三井ホーム株式会社

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