熊本県産の2×4材で
ロングスパンの木造トラス

あらわし仕上げで
構造材そのものを見せる

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三井ホーム株式会社
木構造研究所長

大橋 修

※撮影当時の部署を記載しています。

中大規模木造建築の普及に向けた取り組みを三井ホームが加速化させている。グループ内の木構造ファブリケーターであった三井ホームコンポーネントと昨年4月1日に経営統合し、製販一体の体制を構築済み。それに併せ、木構造に関する設計相談や部分請負など、社外への技術提供にも力を注ぐ。同社は今、どんな技術力を有するのか。木造トラスで構成する屋根組の構造検討協力と施工を担当した阿蘇くまもと空港を例に紹介する。

にぎわいはあってもどこか味気ない空間が広がりがちな空港の旅客ターミナルビル。その常識を覆す空間が、阿蘇くまもと空港に誕生した。2023年3月に開業した地上4階建ての新旅客ターミナルビル。熊本地震からの創造的復興を掲げる再整備プロジェクトのシンボルとなる建物だ。常識を覆す空間は、その目玉ともいえる3階搭乗待合エリアである。
最大の特徴は、従来は保安検査前に済ませることを求めていた買い物・食事を、保安検査後に時間を気にせず楽しめるように改めた点。空間そのものの居心地は、格段に良くなった。

2×4材2枚合せのトラス梁10m×12mの区画に架け渡す

そうした居心地の良さを建築面から後押しするのが、木造トラスで構成する屋根組だ。1万㎡の広がりを持つ天井面に、熊本県産のスギを用いたトラス材と同じく構造用合板の天井パネルの組み合わせが、リズミカルに並ぶ。
鉄骨造で組み上げた施設全体は、設計を日建設計、工事監理を梓設計が担当した。施工は大成建設が担当し、三井ホームは大成建設の下で、木構造屋根組工事を行った。三井ホームは2019年6月に完成した教育施設の木造屋根組設計で共同企業体の一員である日建設計に協力した間柄。阿蘇くまもと空港でも再び、木造屋根組設計に関する技術力が求められた。
天井面を構成する基本区画は、スパン10m×桁行12m。ツーバイフォー(2×4)材を組み合わせたトラス梁を両端の鉄骨梁に架け渡し、並行するトラス梁の間に厚さ12mmの構造用合板を用いた天井パネルを留め付けた。
設計上のポイントは、2×4材を2枚合せたもので、トラス梁の上弦材、下弦材、ラチスを構成することで、スパン10mを確保した点にある。
2×4材同士の接合には原則として、「メタルプレートコネクター」を用いる。このプレートは表面に突起の付いた厚さ1mmの鉄板。接合する部材の継ぎ目に当て、両側面から専用プレス機で力を加え、圧締するものだ。接合部に掛かる応力に応じて、プレートサイズは使い分ける必要がある。
原則的な使い方は、縦に継ぐ2×4材2本とラチスに用いる2×4材2本の交点を、このプレートで両側面から接合する、というもの。ただ下弦材については、大きな力が働くため、同じプレートを使うことができなかった。

下弦材仕口には補強材挟み込み共同開発の構造用ネジで固定

語るのは、三井ホーム木構造研究所長の大橋修氏である。「下弦材には大きな力が働くことから、プレートのサイズを大きくせざるを得ません。それが意匠面から嫌われたのです」。
そこで、既に2018年に別プロジェクトにて日建設計と共同開発し、実績のあった接合方法をここでは採用した。下弦材に用いる2枚の2×4材の間にLVL(単板積層材)を補強材として挟み込み、構造用ネジでそれら3層分を留め付ける、という方法だ。
構造用ネジはメーカーと共同で開発した。「ネジは通常、焼き入れすることで強度を高めますが、半面、脆くなってしまう。このネジは焼き入れせず、粘り強くしています。力に対してじんわりと変形するネジです」(大橋氏)。
ただ、この規模の木製トラス梁は実績がなかったので、設計者と共に検討検証を重ねた、と大橋氏は振り返る。 「まず日建設計が構造計算・解析を行い、その結果を三井ホーム側でも照合、確認しあうことで、その心配を和らげました。さらに実物大曲げ試験を通じて、木製トラス梁がスパン10mで設計上の鉛直荷重に余裕をもって耐えられることを確認してもらいました」
もう1つ、使用木材の見た目について事前確認の苦労も経験した。
この屋根組は、スプリンクラーの設置や排煙設備の確保によって内装制限が緩和され、トラス梁や天井パネルの木部をあらわしで仕上げられている。そのため、木部には見た目の美しさや同じような色調が求められたのである。
そこで福岡県内の九州工場にモックアップを組み、トラス材や天井パネルの色や節の有無、メタルプレートコネクターの見え方などを、建築主や設計者など関係者が施工前の段階で事前確認する場を用意し、合意を得てきた。
さらに施工時には、床の上に部材を並べ、改めて吟味する場も用意した。「例えば部材の色合いが周囲とそぐわないものはバックド 用に回すなど使用場所の変更にも応じてきました」と大橋氏。こうした場を用意することで関係者の合意を促してきたという。

木製トラス梁はツーバイフォー(2×4)材で構成し、並行する2つを組み合わせることで、10m スパンを確保。ラチスとの接合部(黄丸)や上弦材での縦継ぎ(黄丸)にはメタルプレートコネクターを用いた。これに対して大きな力が働く下弦材での縦継ぎ(青丸)には、LVL(単板積層材)を挟み込んだうえで、メーカーと共同開発した構造用ネジで留め付ける方法を用いた

屋根下地材にはDSPを採用直上に防水工事の工法開発へ

屋根の下地材には、三井ホームで開発した木質断熱複合パネル「DSP(ダブルシールドパネル)」を用いる。この部材は、断熱材である発泡成形ポリスチレン(EPS)を構造用パネル(OSB)で挟み込んだもの。構造性能と断熱性能を兼ね備えるほか、長さ6mまで用意できるため、施工性の向上にも寄与する。
DSPは通常、その上に下地材を施工してから防水工事を行う。ところがこの屋根組では、コストや施工性向上などの理由から、その上に直接防水工事を行うことが求められた。そこで、三井ホームでは屋根材メーカーの協力を仰ぎ、DSPに施工してもその挙動に追従できるアスファルト防水の工法を開発した。
開業以来、木部あらわしの天井面は好評だ。そこには、ただの木質化ではなく木造化ならではの力強さがあるのでは、と大橋氏はみる。「木製トラス梁やメタルプレートコネクターなど構造部材を見せることで力強さも感じてもらえていると思います。そこに独自性があり、それが意匠にも効いているのではないでしょうか」。
構造材としての木を見せる――。その魅力が、3階搭乗待合エリアの空間価値を一段と高めている。

建築概要

  • 阿蘇くまもと空港
  • 所在地:熊本県上益城郡益城町大字小谷1802-2
  • 事業者:熊本国際空港株式会社
  • 設計者:株式会社日建設計
  • 監理者:株式会社梓設計
  • 施工者:大成建設株式会社
  • 木構造屋根構造検討協力および屋根組工事:三井ホーム株式会社
  • 施工期間:2021年9月~2022 年9月(木構造屋根組工事)

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