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何ができる?どう使う?
生成AI活用法

大量のデータを学習してコンテンツを生成する生成AI。「ChatGPT」の登場を契機に大きな話題となり、現在も発展を続けています。生成される情報も、文章だけでなく画像やスライドなど多岐にわたっており、さまざまな業務を助けてくれる可能性があります。一方、どのような場面でどのように使えばいいのか分からないという先生方もいらっしゃるかと思います。開業医というお立場でどのような活用法が考えられるのでしょうか?ご自身でも生成AIを積極的に活用し、医療者向けに共著も出版している国立精神・神経医療研究センター病院臨床検査部睡眠障害検査室医長の松井健太郎先生に伺いました。

※本記事の内容は、取材時点(2023年12月)のものです。

業務をサポートし、相談相手になってくれるのが生成AI

――松井先生は、いつごろから生成AIを活用されているのですか?

ChatGPTは、公開直後の2022年12月から使っています。最初から仕事で使おうと思っていたわけではなく、「何ができるのだろう」と興味を持ち、ノベルゲーム(文章を読み進めることを主体とし、選択肢によって物語の展開等が変化するゲーム)の相手になってもらったり、寄せ書きのメッセージのアイデアを出してもらったりと、さまざまなことを試してみました。そうする中で、ChatGPTが得意なことと不得意なことが少しずつ分かってきて、活用できそうな場面が想像できるようになりました。

また、画像生成AIの「Midjourney」はChatGPTよりも前から使っています。講演会の案内チラシなどを自分で作る機会がたびたびあるのですが、画像が必要な場合、以前はフリー素材を使っていました。生成AIを使えば、欲しい画像を自分で出力できるようになるのではないかと思い、出来栄えに感動したのもあり、サブスクリプションで利用するようになった次第です。

――ChatGPTやMidjourney以外にも生成AIサービスは多数ありますが、他にお使いのものはありますか?

論文を探すときには、検索型の生成AIである「Perplexity AI」や、AIを使った研究支援サービス「Elicit」をよく使います。マイクロソフトの「Bing」も役立つことがあります。これらはインターネットを検索して回答を探す機能があるため、調べ物に使えます。なおChatGPTの場合、無料版ではWeb検索機能がなく、2021年9月までの情報を学習した上で回答を生成しているため、調べ物や最新情報の取得などには不向きです(有料版には検索機能がありますが、まだまだ、という印象です)。

ただ、どのサービスも完璧ではなく、漏れが生じることもあります。Perplexity AIで見つからなかった情報がElicitやBingなどで見つかることもあるので、複数のAIで調べることが多いです。

――こうした生成AIは、医師の業務に活用できる状況なのでしょうか?

現段階では、直接的に診断や治療などに使うことには慎重になるべきで、最終的な判断は医師自身が行う必要がありますが、サポートツールとしては使える部分があると思います。例えば「このような症状がある場合の鑑別を考えてほしい」と聞くと、考えられる選択肢をいくつも提示してくれます。現状のAIに深い知識は期待できないものの、見落としを減らすことはできるかもしれません。

ただ、生成AIの出力には、一見正しそうに見えて誤った情報が混じっていることがあります(「ハルシネーション」と言います)。ですから、答えを教えてもらおうとするのではなく、サポーターや壁打ち相手と考えるとよいのではないでしょうか。誤った内容を返してきたら「それは間違っています」と訂正すれば、「大変失礼しました、ご指摘の通り〇〇が正しいです」から始まり、以後訂正した内容を前提に回答してくれるようになります。ハルシネーションがあることを理解した上で上手に使えば、良い相談相手になってくれるのではないかと思います。

また、診療以外の業務では、生成AIが活用できる場面が多々あります。業務効率化につながり、忙しい開業医の先生方の助けになってくれると思います。私自身、「こういう場面で使ったら業務が楽になるのでは?」などと、生成AIで業務を効率化できる方法を常に考えています。

実際の業務で役立つ!生成AI活用例

――具体的には、どのような場面での活用が考えられますか?

開業医の先生が活用しやすい場面は大きく分けて2つあると思います。ここでは、最もよく知られた生成AIであるChatGPTの無料版で行える作業を紹介します。ChatGPTは大量のデータを学習した「集合知」で、平均的な回答が得意な印象ですので、さまざまな作業に使いやすい生成AIだと思います。

1.ひな型がある文章の作成

ChatGPTは、ひな型どおりに情報をまとめるのが得意ですので、例えば業務メールの作成に活用できます。プロンプト(生成AIへの指示文)として、まず「どのようなメールを書いてほしいのか」という指示を記載し、その後に「盛り込んでほしい内容」を箇条書きにすれば、ほんの数秒でまとめてくれます。また、クレーム対応や謝罪の文章にも活用が可能です。こちらもメールと同様、プロンプトにまず「どのような文章を書いてほしいのか」を記載し、それから「盛り込んでほしい内容」を箇条書きにすれば、丁寧な文章を作成してくれます。クレーム対応や謝罪を行う文章は、自分で考えようと思うと心が削られてしまうことも多いものですが、ChatGPTは機械ですので、淡々と出力してくれて負担が軽減されると思います。

仕事で使う文章だけでなく、例えば結婚式のスピーチなど、頻繁に作成する機会がなくてなかなか思いつかない文章の作成にも使えます。新郎/新婦とのエピソードなどを箇条書きで列挙すれば、仮案を作成してくれます。生成された内容をそのまま使うのは難しいでしょうが、たたき台として役立つはずです。

2.アイデア出しの壁打ち相手

先ほども少し触れましたが、生成AIは壁打ち相手としても活用できます。開業医の先生方で、お一人で診療されている場合は特に、ご自身と同じようなレベルで医学的な話をできる相手が近くにいらっしゃらないかもしれません。また、経営者としての側面もお持ちで、事業についても考えなければならないお立場でしょう。そんなときに、生成AIはアイデア出しや思考の整理を手伝ってくれます。思いついたことを手当たり次第に入力し、生成AIと会話しながら最後に要約してもらう、といった使い方も可能です。生成AIの一言から予想もしなかった良いアイデアが降りてくることもあるかもしれません。

生成AIの優れた点は、人間では出せないような数のアイデアを出してくれることです。しかも、人間なら時間がかかるようなアイデアを短時間で考えてくれます。別の回答を再生成するボタン(Regenerate Response)をクリックすると、同じプロンプトに基づいて別のアイデアを何度も出してくれます。

まずは触って特徴を知ることから始めよう

――生成AIを使って、できるだけ狙ったとおりの回答を得るためのポイントは何でしょうか?

「指示したことを生成AIがやってくれない」という声を聞くことがありますが、適切な回答を得るためにはプロンプトが非常に重要です。基本の型を示しますので、以下のような順序で記載してみてください。

  • プロンプトの冒頭で、背景情報を入れる(例:「私は管理職の事務職員で、全職員向けのメールを作ろうとしています」「あなたは内科診断学の専門家として回答してください」など)
  • 次に何をしてほしいのか明示する(例:「以下のような内容を盛り込んだ業務メールを書いてください」「xxに関するアイデアを箇条書きで挙げてください」など)
  • その後、条件や文脈を箇条書きにする(例:メールに盛り込んで欲しい内容、挙げてほしいアイデアに関する条件など)

できるだけ論理的かつ具体的な記載を心がけると、生成AIに指示が伝わりやすいかと思います。

――生成AIを使う上で注意すべき点をお聞かせください。

まず、先に触れたハルシネーションの問題です。出力された内容が正しいかどうか、必ず確認する必要があります。一見正しそうに見えることも多いため、特に自分の専門分野以外の内容を扱う場合には注意が必要です。ただ、現実でも正しくない情報に触れることはありますよね。生成AIだけが特殊で信用できない、というわけではなく、他の情報源でも同じことです。

また、個人情報や機密情報は生成AIに入力しないようにします。入力した情報は、生成AIの学習に利用される可能性があり、他のユーザーに対する回答として個人情報が流出してしまう可能性がゼロではありません。ChatGPTのように、入力した情報を学習に使用させない設定が可能な生成AIもありますが、基本的にこうした情報を生成AIで扱うことは控えましょう。

――生成AIに抵抗を感じていらっしゃる先生や、まだ十分に活用できていない先生にアドバイスをお願いできますか?

現状の生成AIサービスは、インターネットに接続して情報を入力する必要がありますが、私は近い将来、ローカルで(パソコンの中で完結した状態で)使える生成AI製品が出てくると予想しています。ローカルで使えることのメリットは、個人情報を外部に渡すことなく生成AIが使えることです。そうすると例えば、初診の患者さんに紙の問診票を書いてもらう代わりに、生成AIを使ったチャットボットと対話してもらうことで、予診内容を要約し、そのまま診療録にコピーアンドペーストできる状態で出力することが可能になります。また、電子カルテの情報をもとに診療情報提供書などの文書も自動で作成できるようになると考えられます。こうした製品は業務の効率化につながり、開業医の先生方にも非常にメリットが大きいはずです。今から生成AIに慣れておくことは、将来への備えになるのではないかと思います。

生成AIは決して優れた部分ばかりではありません。「一度触ってみたけれど、誤った情報が返ってくるので活用しづらいと思った」という先生もいらっしゃるかもしれません。しかし、日進月歩でより精度の高いモデルがどんどん登場してきています。上手に使うと想像以上に良い答えが返ってきて、感動を覚えることさえあります。まずは無料で使えるものをたくさん触って、特徴を知ることから始めてみてはいかがでしょうか。

松井健太郎(まつい・けんたろう)
国立精神・神経医療研究センター病院臨床検査部睡眠障害検査室医長
2009年東北大学医学部卒業。東京女子医科大学病院、睡眠総合ケアクリニック代々木などでの勤務を経て、2019年より国立精神・神経医療研究センター病院臨床検査部睡眠障害検査室医長、2022年より同睡眠障害センター長(兼務)。専門は睡眠障害。著書『眠りのメェ~探偵 睡眠薬の使い方がよくわかる』(金芳堂)、共著書『医療者のためのChatGPT』(新興医学出版社)。