プロが考える
Home sweet Home

三井ホームの設計士、エクステリアデザイナー、
ガーデンプランツのコーディネーターに
いい家づくりのプロセスや、
これからのエクステリアのあり方について
伺いました。(敬称略)

エクステリアデザイナー
河村祐子

一級造園施工管理技士
三井ホーム株式会社 インテリア・エクステリア戦略室
エクステリア戦略グループ 主任
前職では一般物件の設計、モデルハウスの設計に携わり、
2015年に三井ホームに入社。
本社では注文住宅・モデルハウスの設計、マニュアル・方針作成など
エクステリア全般に関する仕事を手掛ける。

少しでもいいので
庭を感じるスペースを持ってほしい

敷地の大きさやお施主様のお好みによって、庭との付き合い方は大きく変わりますが、せっかく戸建てで建築いただくのであれば、少しでもいいので庭を感じられるスペースを作っていただきたいと思います。都市型の住宅で敷地にゆとりがない場合でも、夜に涼める空間を作って、木を1本植えるだけでも生活は変わってくると思います。最初から庭は無理と諦めずに、小スペースでも庭の生活を楽しむことができるように設計することをおすすめしています。

管理面も考えて提案するのも仕事

庭を維持するにはある程度の管理が必要です。従って、お客様がどこまで管理できるかも考えながら植栽の量とか舗装の量を提案します。私の経験として、最初は樹木はいらないと言っていたお客様でも、「1本でも植えてみませんか?」とお話しして植えた後、「やっぱり植えてもらってよかった」という声も多くいただいています。

管理面では、手がかからないもの、樹木であれば大きくなりすぎないもの、葉がたくさん落ちないもの、虫がつかないものというのをご要望として多くいただきます。そういうお客様には、例えば落葉樹であればアオダモのような成長のゆっくりな樹木をおすすめしたりします。見た目も美しく、管理も比較的手間がかかりません。また、境界際には常緑樹をおすすめするなどお隣にも配慮した計画を意識しています。樹木や草花は、種類によって管理や見た目も大きく変わるので、きちんとご説明して打合せで決めていきます。

こだわりのあるお客様は、樹木を一緒に選んでもらったこともあります。選んでもらうとやっぱり愛着が湧きますので、管理にも熱が入るようです。

山採り風の幹の細い樹木は見た目も繊細で美しく、成長がゆっくりな樹種であればあまり手がかからない。
樹種や草花の種類で管理の仕方や見た目が変わってくる。お客様が管理できる範囲で植栽の量をご提案することが大切。

モダンな建物にも合う
トレンドを押さえた植物も

市川のモデルハウスを担当させてもらったとき、生産者さんから直接植物を購入するという、新しい取り組みをしました。生産できる権利が限られている植物をパテント品というんですけど、そういう植物も植えてもらい、希少性の高いオリジナルな植物をアピールする場にしてもらいました。

例えばタイニーパンパという植物は、通常パンパスグラスは3〜4mにも成長してしまうものですが、これは50㎝×50㎝ほどのスペースがあれば植えられます。矮性コニファーのブルースターは、何年経ってもほとんど大きくならないんです。こういったお手入れが楽で、ある程度トレンドを押さえられる植物を、今回実験的な意味を込めて植えました。お客様の中でも「植物を庭に植えたいけど、大きくなりすぎるのは嫌」という人には、「こういうものもありますよ」とご紹介したいです。

モダンな感じに合う植物もあります。トキワマンサクを低木仕立てにしたものは、常緑でお花も咲くし、割と管理しやすいのでおすすめです。生産者さんが魅力のある新品種を作っても、直接お客様にご紹介する機会がないので、こういう場を通してご紹介していきたいと思っています。

タイニーパンパ
ブルースター
トキワマンサク
市川モデルハウス

設計士
大川洋平

一級建築士
三井ホーム株式会社 注文住宅事業推進部 開発グループ
マネージャー/チーフデザイナー
2004年三井ホーム入社。工事・設計担当、プランナー、
商品開発部を経て現在の部署へ。
新デザインの開発・モデルハウスの設計を担当。

建物とエクステリア設計の
ポイント

私が家を設計するときに大事にしていることは、まずは配置です。敷地条件を読むのが一番最初にやることです。建設地の方位、立地、周りにどういう家が建っていて、窓がどこにあるか、どこに視線が抜けて風が通るかを確認します。あと高低差、工作物との位置関係、高さなども必ず確認します。

そしてまずは車の配置、今はほとんどの方は車をお持ちなので、車とか自転車など外に配置するものの位置関係、それから玄関の配置を決めていきます。周辺環境の中でも、例えばお隣の家にいい木が植えられていたら借景にしようとか。密集した土地だと庭を持ちづらいと思うので、ひとつのアイデアです。つまり、道路の向こうに街路樹が見えるとか、いいロケーションを活かすようにしています。ひと通りぐるっと回ってどういう環境かを確認するようにしています。

車や自転車など、外に配置するものから
位置関係を決めていく。

ただ、どうしても予算がありますから、外構は建物に回した残りの予算になりがちです。最初はなかなか予算をとるのは難しくても、長い目で見て庭づくりは大事なので、最初に全部決めるのではなく、あとで手を加えられる余地をとって生活しながら外構を作り上げていく3年ガーデン提案は、お客様と末長いお付き合いができる非常にいい考えだと思っています。

車や自転車など、外に配置するものから
位置関係を決めていく。

アプローチを
できるだけ長くとるように提案

いつも考えているのが、道路から玄関までのアプローチをなるべく長くとりたいということです。すぐに玄関が見えるのではなく、クランクさせて、直線的にならないような形とか、玄関ドアの向きも、道路から見えないようにちょっと隠す配慮をするとか。当然それによって樹木の位置が大切になってきます。平面的に配置も考えますし、立面的にもどこに緑があるかで大きく変わってくるので、必ずお客様に出すときはスケッチで提案します。

すぐに玄関が見えないようにクランクさせる。

外とのつながりを感じる家

建物の窓のとり方、外の見え方は非常に大事だと思っています。プライバシーをどう確保するのか、中から外の見え方、法的な規制も加味しながら、うまくバランスをとって考えるのがセオリーです。

それと、小さくてもくつろげる外空間があるといいですね。やっぱり中で過ごすのと外で過ごすのって気持ちが切り替わりますし、今日みたいに気候がいいと外でご飯を食べようか、そういうふうにも使えます。その場合、外空間はリビングやダイニングに近い位置にある方が理想的ですね。動線的にも調理したものなどをすぐに出せる配置にするのもひとつかなと思います。

リビングに設けた大きな窓からは、四季の移ろいが眺められる。
LDKに隣接する、プライバシーにも配慮した半戸外空間「ラナイ」。

プランティングコーディネーター
白井典子

Garden & Planting design ROOTS代表
植物の習性をふまえ、実用性・デザイン性、
お手入れ方法までコンサルティングを行う。
長期渡仏の経験があり、新築物件・
展示場のコーディネートや、
個人邸の年間メンテナンスを請け負っている。

お客様の要望を叶えつつ、
現実的に

私は一番最後というか、彩りの部分でおじゃまする感じが多いですけど、建物があって、外構があって、お客様がいて、私なので、そのお客様の要望を叶えるっていうのが一番私のやることかなって思っています。例えばハーブガーデンをやりたい、ハーブを使いたいという方なら、「そのハーブをどういうふうに使いますか?」とお客様とお話ししたり、家庭菜園をしたいという方には、キッチンの近くにそういったスペースをとれるかなどを伺いながら、いろいろ植栽計画を立てるようにしています。要望に100%応えたいけれど、植栽のスペースもあるので、叶えつつ現実的なものを提案していくことが大切だと考えています。

私のお客様の中で、建物と外構を一体提案で考えてうまく設計された方がいて、そのお客様は「カーテンがいらなくなりました」とおっしゃっていました。建物と庭を一緒に考えることで、全てが調和されて、自然にセットされた木陰ができるんです。家づくりに関わるみんなの協力があって良いものができるんだなと思います。

植栽スペースによってお客様にあった提案をすることが大切。

ストレスを軽減するのも私の役目

お客様を担当するときには、敷地の環境はもちろん、周りの方とどのくらい密な環境かを一番考えます。葉っぱが1枚向こうに落ちたことですごく気になって、秋になると憂鬱になってしまう方もいます。そのストレスを排除するためには、落葉ではなく、常緑に植え替えてあげたりとかして。長年かかわりながら、ストレスをなくすのも私の役目かなと思っています。

私の知っているお客様で、一番お庭を活用されている方のお話しなのですが、お客様の想いと、設計士さん、エクステリアデザイナーさんや私のことも信頼してくださっていて、年間8回くらいメンテナンスにお伺いしています。芝がたくさんあって、芝愛がすごいんですよ、旦那様の。「芝をゴルフ場みたいに綺麗にしてほしい」と言われて、通常だとゴルフ場みたいにするのは難しいんですけど、お客様と意見交換を何度も何度もして、今年8年目、去年くらいから旦那様に花丸をいただけるようになりました。

お客様の想いがつまったエクステリア。芝のメンテナンスには年間8回ほど伺っている。

長いお付き合いで思い描く庭にしていく

3年目くらいからお客様の思い描く庭になっていくと感じています。メンテナンスしているお客様には10年単位で通っているお客様もいますし、長く付き合いながら信頼を重ねていくことを大切にしています。

お客様からレモンの木を植えたいというご希望があったとき、レモンは寒さに弱いですから、私は冬になると寒さよけのガードをかけに毎年お伺いしていました。7年目で発芽してレモンがなってからは、「今年は何個つきました」、「今年はちょっと少ないかな」とお客様が連絡してきてくれます。そのレモンを使ってお食事会をしたり、そのときに「お庭のレモンを使ったのよ」とお話しされていたり、お庭のローズマリーをキーホルダーにしたり。庭をたくさん使われているのを見ると、そういう使い方もあるのだと逆に教わることもあります。

庭で育てた植物が日常をもっと楽しくする。

皆さんが考える
エクステリアフィロソフィーとは?

家と庭のいい関係を
デザインする。
それは住まいづくりに関わる人
全ての役割。

大川
緑があるとないとではやっぱり、中から見たときも外から見たときも全然うるおい感が違うというか、完成度で言うと7割くらい違う印象を持っていまして。もちろん住む方のためでもあるんですけど、その周りの方のためでもあると思っています。そして、そのつながりがどんどん続いていけば、その街自体が良くなりますし、葉が落ちるとか、管理とか手間がかかることはあると思うけど、少しでもいいので「1本でもどうですか?」とお伝えするようにしています。
河村
やっぱり植物の持つ力ってすごく大きいと思っているんですよね。大川さんが言ったように街に対してもそうですし、暮らしにしても、いい影響を与えてくれると思うんです。長年過ごすと木の芽吹きが嬉しくなったり、成長したなと思ったり、子供と実を収穫するとか、何でもいいんですけど、生活と密着している一番身近な自然だと思いますので、ぜひその良さを知っていただきたいという気持ちがあります。今後も自然を取り入れた生活を豊かにするエクステリア計画をおすすめしていきたいと思います。
白井
ほんとに庭と建物とを別々に考えないでほしい、と言うのが一番です。そしてカーテンのない、オープンな日常を楽しんでほしい。建物のみ、植栽のみでデザインを考えるのではなく、建物の一部として考えて、建物とフェンスとグリーンが調和された状態であれば、素晴らしい朝の目覚めを迎えられると思います。絶対家の中から見る木陰って素敵です。太陽の位置で全然違う。カーテン越しに光を感じるとか、庭の木を見て「落葉しちゃったな」とか、「新芽出てきたな」とか、意外と相棒みたいになってくるんです。たまに触ってみて「元気元気!」とか。ぜひグリーンを室内に飾ることもしてほしいと思います。お客様の中には、私たちがメンテナンスしたものを花束にして、ウェルカムフラワーとして来客に配ったり、切り花をお友達の個展のお祝いに持っていったりと、家と外をつなぐ花の活用をされている方がいらっしゃいます。お庭を「アウトテリア、リビングの延長」みたいにおっしゃっていて、素敵だなあと思いました。