憧れをかたちに。三井ホーム
三井不動産グループ MITSUI FUDOSAN GROUP

理想の家、理想の暮らし 02

出典:ELLE DECOR 2024年3月7日発売 No.184

場所の記憶を残す
長く住み継ぐための家

1974年の創業以来、オーダーメイドの家づくりに向き合い、人々の暮らしを見つめてきた三井ホーム。理想的な住まいと暮らしを考える連載の第2回は、自らも個性豊かな木の住宅を手掛けパリを拠点に活躍する建築家の田根剛に話を聞いた。世界を舞台に創造の場を広げる彼の視点が捉えた、メンテナンスしながら長く使える木造建築の価値とは。

Photos KEI OGATA(portrait) Hair&Makeup HIROKAZU NIWA Text SHIYO YAMASHITA


昨年末に六本木で行われた松本潤の展覧会、『PERSPECTIVE ─時をつなぐ眼差し─』に参画した6人のクリエーターの一人として会場構成を手掛けた田根。会期直前にパリから帰国した時にインタビューを行った。

Tsuyoshi Tane
田根 剛
1979年東京都生まれ。2017年に自身の事務所、Atelier Tsuyoshi Tane Architects設立。主な作品に「エストニア国立博物館」(2016)、「弘前れんが倉庫美術館」(2020)などがある。

建築家・田根 剛
記憶は未来をつくる原動力。
世代を超えて住み続けられる
家づくりを

「最近パリは歩道や自転車の専用レーンが拡張されて植栽が増え、街の在り方が大きく変わってきています」

インタビューの冒頭で、自身の事務所があるパリの様子を語る建築家の田根剛。人々が街が変わることを望み、実際に変えていく意志を肌で感じるという。日本においては「木で建てれば、街は森になる。」との発想の下、さまざまな建物の木造化に取り組み、構造や内外装に積極的に木を使い、街を変える試みが三井ホームによって進められている。そのプロジェクトの名は「MOCX GREENPROJECT」(最下段コラム参照)。

「素晴らしいと思います。木材には国産材をどんどん使っていけるといいですね」

「MOCX GREEN PROJECT」について説明を聞いた田根剛は、そうリクエストする。三井不動産グループは北海道に約5000ヘクタールの森林を保有しており、今後はその活用にも力を入れていくという。

「育てる場所とつくる場所がつながっていることは素晴らしい。日本にはいろいろな地域と需要があるので、ぜひ積極的に展開してください」と地域材の活用にも期待を寄せる。 田根は、木造建築にはさまざまな利点があると考えている。

「木造の利点はコンクリートと比較して容易に直せるところ。コンクリートは、直した際に劣化が目立つ傾向にあります。また、木という素材の特質が人に合っていると思います。現代人はオフィスを含め、一日の9割以上を室内で過ごしていますから、家にいる時は落ち着いたり、ぬくもりのある素材に触れるのがいいのではないでしょうか。個人的には、洋服も化学繊維よりオーガニックな素材の方が肌に優しいと感じます」

人に合わせるのではなく場所を
第一に考えた家づくり

彼がこれまでに手掛けた住宅はいずれも木造だ。初の住宅設計である2015年竣工の「A House for Oiso」は、オーナーから「100年続く家を」との依頼を受け設計した。

「家の本来の役割って何だろう、と考え抜いた末、生き物としての帰巣本能に応える、『家は帰る場所』であるという答えにたどり着きました。敷地からは縄文、弥生の土器も出土したので、そのような歴史のある土地のために家はどうあるべきかも考えました。また同時に、オーナーの『この土地の住人になる』というひと言に感銘を受けました。当初の居住スペースは、今はコンサートを開催したり、作家の方が展示を行ったりする地元に開かれたスペースに。まさに『大磯のための家』に育ったなとうれしく思っています」

田根は続ける。「場所に敬意を払い、そこに建物をつくり、それを人が使わせてもらうという関係性を意識することが何よりも大事。それが崩れると、建物は簡単に壊され、場所の記憶も消えてしまいます」

2018年に竣工した木造住宅「Todoroki House in Valley」では、地盤面の湿度が高く上空には乾いた風が吹く渓谷の環境特性を何より重視したという。近視眼的に住み手の状況に迎合した家づくりをせず、家族が世代を超えて、また家族以外の人も住み継げる家にすることも、田根が意識していることの一つだ。

建築家の仕事は未来をつくること。
設計だけではだめなんです 田根 剛

「記憶は未来をつくる原動力」と話す田根には、今の日本の状況がもどかしく映るようだ。

「日本の風土には過ぎ去っていくこと、なくなることを自然と捉えるところがある。その意識を変えていかなければと思います。このままでは歴史ある建物が壊されるのと同時に、先人が積み重ねてきた文化が失われていく。あと30年したら東京には何が残っているでしょうか。きちんと残していくためには、先人がつくった街や建物に敬意を持ち、時間を積み重ねていくこと、記憶を残す努力を続けることが大切だと思います」

多彩な活動を展開する三井ホームは街づくりはもちろん、「経年優化の家」をテーマに、長く暮らし継ぐ家づくりにも取り組んでいる。「都市の森」をつくりながら、その街の記憶をとどめ、文化を守る。できることはまだまだありそうだ。


[Tane's WORKS]
Todoroki House in Valley

森を取り戻す「未来の東京の家」

Photos YUNA YAGI

地盤面の湿度が高く、上空には谷間からの風が吹き抜ける、等々力渓谷に至近の立地特性を生かした住宅。床を掘り下げた1階は開放的に、有機的な形状の2階は閉鎖的にプランし、森に囲まれたかつての暮らしを取り戻す空間とした。

[Tane's WORKS]
Imperial Hotel Tokyo

「東洋の宝石」を未来につなぐ

Image ATELIER TSUYOSHI TANE ARCHITECTS

帝国ホテル 東京 新本館の建て替え計画。「品格・継承・挑戦」というキーワードのもと、2代目・ライト館を形容する言葉「東洋の宝石」を継承し未来につなぐことをコンセプトに「宮殿」と「塔」を融合したデザインに。2036年に完成予定。

[Tane's WORKS]
A House for Oiso

記憶を残す「大磯のための家」

Photos TAKUMI OTA

縄文時代からの歴史を持つ大磯に2015年に建てられた、田根が手掛けた最初の住宅。敷地に沿って並べられた、4つの土壁の箱上に木造家屋が乗ったような構成が特徴。住居空間だった2階を現在はギャラリーとして開放している。

[Mitsui Home Column]
MOCX GREEN PROJECT

「木造マンション」という可能性

木造建築のポテンシャルを追求し、建築物の木造化、木質化に取り組むプロジェクトが「MOCX GREEN PROJECT」。中大規模建築物の木造化の推進はその取り組みの一つだ。「モクシオン」は木を主要構造材とし、高断熱・高強度・高耐久をかなえたサステナブルな木造マンション。第1号の「モクシオン稲城」は2021年に竣工した。