H.I様
子供のいない私達は、夫が退職したら駅前のマンションに住み替えようと思っていた。
実は、一度三井ホームの“スパニッシュ”に憧れ、モデルハウスで新築を検討したことがある。結局は、それまで住んでいた家のリフォームを選択し、新築の夢は叶わなかった。
時に人生は、予想がつかないことが起こるものだ。7年前、ある事故で私は頸髄を損傷した。当時の家は高台にあり、私にとってそこでの生活は難しく、退院のめどが立たないまま入院生活3年の月日が流れた。車椅子でも快適でおしゃれな生活ができる家を建てて、今まで通りの普通の生活に戻りたいと思えるようになった私達は、再び三井ホームの扉を叩くことになる。
打ち合わせの初日のわくわくした気持ちは、今でもはっきり覚えている。けがをして以来その日を生きるだけで、精一杯だった私達が初めて描く未来である。しかし、実際には、車椅子という制限のある中での作業は、思うように捗らない日もあった。自分が車椅子生活になって、日常に溢れる危険や不便さに直面する事はあまりにも多い。足が入る高さの洗面台や水洗の位置など、微に入り細にわたり、何度も設計図は書き換えられた。段差のない玄関前のアプローチ、コンセントの高さに至るまで、あらゆる工夫が施された。これからの人生を象徴すべく光を感じるリビング中心の間取りを設計士と相談した。同時進行での内装を決める作業は、想像以上に多くの時間を費やした。膨大な量のカタログから、床・壁・カーテン・照明器具を選ぶのは考える だけでも楽しく、時間が経つのを忘れた。 設計図ではイメージしにくかったものが、 モザイクをはめていくように形になって いく喜び。一日も早い完成を心待ちに する日が続いた。
私達は自他ともに認めるイタリア好き。オレンジ色の屋根瓦と煙突は夫のこだわり。料理好きだった私に、夫がプレゼントしてくれたオーダーメードのもう一つのキッチンが、私のお気に入りだ。
私の家に帰りたいという気持ちが、再び生きる喜びを産んだ。リハビリにも意欲的に取り組み、予定より半年早く夫の待つ家へ帰ることができた。それは事故からもう4年の歳月が 流れていた。
今私が家で普通の生活を送れているのは、このプロジェクトに携わってくれた多くの方々のおかげと感謝している。これからも、三井の家とともに年を重ね、熟成した人生を楽しみたい。