千変万化する越前和紙の可能性〈後編〉
長田製紙所

2021.12.16

越前和紙の工房、長田(おさだ)製紙所では、伝統の製法が守られ、そこからまた新たな技法が生まれていました。とりわけ室内装飾としての和紙の魅力は、国内外で需要が高まってきているといいます。京都で和紙専門店を営む和紙プロデューサー、加藤富美代さんも、早くからその品質に注目。長田製紙所当主、長田和也さんとともに、多種多様な越前和紙の装飾美についてお話いただきました。

新素材との融合。

長田製紙所の工房では、米国から発注された約1.8m四方の和紙製パーティションが制作されていました。長田さんが改良した技法「飛龍」による、円を重ねた複雑な模様が目を引きます。また、別棟のギャラリーには、飛龍を何層も重ねて仕上げた数種類のフロアライトも。光源によってグラデーションをたたえた美しい模様が浮かび上がります。そんな作品に惚れ込むのは、全国の上質な和紙を取り扱う京都の専門店「和紙来歩(ワシライフ)」の代表、加藤富美代さん。和紙を利用した新しい装飾建材も提案しています。
「フランスのアクリルメーカーが開発した『ダクリル』という新素材です。それは、布や紙などのデリケートな作品を、特殊なアクリル樹脂で封じ込めるというもの。単なるアクリル板の挟み込みではないので、和紙なら繊維の細やかな質感も崩すことなく、そのままパネルにもできます。長田さんの飛龍は、繊維が立っていて凹凸感も豊かなので、ダクリルに最適なんです」
和紙を封入したダクリルは、厚み15mm前後。和紙の劣化を防げるうえ、濡れることも多い屋外やバスルームでも、和紙を装飾として活かすことができます。

長田製紙所の飛龍を封入した「ダクリル」

類のない芸術性を後世に。

長田さんは、飛龍以外にも伝統技法を現代風にアレンジして、顧客の要望に応えています。和紙を漉く際に、杉の皮や竹の葉、小石などをあしらいとして加えることも。老舗酒蔵からの依頼で、壁紙や襖紙に酒米を埋め込んだこともあるそうです。
また、「墨流し」という伝統技法も特徴的です。まず、水が張られた槽に墨と松ヤニを含んだ筆を交互につけ、それらの染料を水面に浮かべます。染料は波紋のように広がり、様々な形状に。水面の上に漉いた和紙をのせると、美しい波紋柄が和紙に写ります。その模様は、まるで大理石や木目のよう。この墨流しを襖サイズの大きい判型でできることも長田製紙所の強みでもあります。

MITSUI HOME PREMIUM世田谷レジデンスの屏風アートには、飛龍を応用した模様のほか、「落水柄」も見ることができます。それは、漉いた紙に水玉を落として模様とするもの。
「基本的な技術力は必要ですが、水や空気の動きが模様の形を決めることも多いんです。その瞬間にしか生まれない、自然が織りなす造形を切り取る作業をしているのかもしれませんね」
と長田さん。日本家屋の襖の需要が減るなか、いかに技術を絶やさず次世代につないでいくかを日々考えているそうです。その答えのひとつが、和紙の屏風アートかもしれません。培われてきた手作業でしか生まれない芸術性と、和紙が持つ新たな可能性がそこには見えます。ぜひ、一度ご覧ください。

長田和也さん(右)と加藤富美代さん(左)

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