輪島の漆塗り、新たな挑戦〈後編〉
輪島キリモト

2021.03.31

金属食器とともに使える漆器。あるいはデスクの天板も漆塗りに。輪島キリモトは斬新な漆塗り製品を手掛け、輪島塗の新たな魅力を発信しています。前回は7代目当主、桐本泰一さんに、従来とは異なる技法や一貫生産体制を築いた経緯についてお聞きしました。他にも、現代のライフスタイルに溶け込んだ輪島発の漆芸があるようです。さらには漆器の里の未来を見据えた、地域の取り組みについてもお話いただきました。

多機能素材としての漆塗り。

輪島塗は、何層も漆を塗り重ねてあるため、表面が欠けたり、また割れても修理しやすいという特徴があります。そしていつまでも新品と見まがうほどの光沢を帯び続け、年々味わい深い色合いが備わっていきます。
「長く愛用できることに加え、漆には生活に密接に関わる機能面でのメリットも多いのです。ひとつは抗菌作用。金沢工業大学や工業試験場の実験で、漆塗りのチップに付着させた大腸菌やサルモネラ菌などの細菌が24時間で死滅することが実証されています。漆の重箱がおせち料理の保存に適しているのも、理にかなっているわけです」
さらに輪島には、伝統的に家屋の建材にも漆塗りを施す慣習があるとか。ここにも、機能素材としての漆の効果が垣間見られると桐本さんはいいます。
「“拭き漆”という作業で、柱や床板などに何度も漆を塗って布ですり込みます。木目を美しく見せてくれるだけでなく、漆には防腐、防汚効果があるため家屋を長持ちさせてくれるのです。それに湿度70%で凝固する漆は一定の保湿効果もあります。加えて防虫効果もあるので、住環境には最適な素材なんですよ」
そんな機能性を踏まえ、輪島塗を進化させた「蒔地」や「漆布みせ」といった輪島キリモト独自の技法もまた、建築内装の分野に活躍の場を広げています。それは個人邸にとどまらず、レストランやブティック、地下鉄駅のホーム壁面にいたるまで多岐にわたるものです。

純輪島産の再興を目指して。

器や内装に美しさと様々な機能をもたらす漆塗りですが、実は原料の漆自体の約90%はほぼ輸入品に頼っているのが実情といいます。
「かつて輪島でも漆がたくさん採れ、全国3位の採取量を誇っていました。ところが経済的な理由から衰退。国産品より安価な輸入品は、品質に問題がないため、わざわざ地産原料を採取する必要がなくなったからです。しかし、本筋であれば輪島産の漆で輪島の漆芸を実現すべき。そこで2011年に『輪島漆再生プロジェクト実行委員会』が組織されました。私も会員として活動しています」
このプロジェクトは、漆の木の植栽や漆かき職人の育成などを通して輪島漆の復興を目指すというもの。植栽から漆が採れるまで10~15年はかかるといわれていますが、近年、徐々に採取量が確保できるようになってきました。その輪島漆をつかい、試験的に漆芸品の製作も行われています。
「輪島漆を使った商品開発を契機として、2017年に『輪島クリエイティブデザイン塾』を立ち上げ、私が塾長に就任しました。新たな漆芸品の製作面だけでなく、広報や販路も含め、様々な分野の専門家をお呼びして講義を設けています。漆芸専門学校の学生などの参加も多く、皆さん熱心。今は道半ばですが、原料も含めた“純輪島産”復興の兆しが見えてきました」
昨年には、種まきから苗木を育て、その後市民に配布し漆の木を育ててもらうという試みも始まりました。漆の苗木のように、輪島塗の新しい創作活動は芽吹いたばかりです。

MITSUI HOME PREMIUM世田谷レジデンスにある、黒い「漆布みせ」仕上げによるテレビボードも、桐本さんら輪島の人々の想いが詰まっています。光の当たり方によって様々な風合いを見せてくれますが、特に照明を落とした時などは、他の家具にはない味わい深い表情が見えてくるのではと、桐本さんは話してくれました。ぜひ、一度ご覧ください。

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