極まる化粧合板の天然美〈前編〉
安多化粧合板

2022.04.08

「化粧合板」とは、天然木を薄くスライスした突板(つきいた)を基材に貼り合わせて、内装や家具に利用する意匠素材のこと。大阪・八尾市の安多(やすた)化粧合板は、そのエキスパートとして、全国の建築家やインテリアデザイナーたちからも、高く評価されています。木の温もりと洗練されたデザインを兼ね備えた同社製のウッドパネルは、MITSUI HOME PREMIUMのモデルハウスでも上質な室内空間を支えています。社長の安多茂一さんにお話いただきました。

突き詰めた規格外の可能性。

MITSUI HOME PREMIUM(駒沢・芦屋・八事)レジデンスのダイニングには、美しい濃淡のグラデーションをたたえた木の壁面が設えてあります。これは、チェリーウッドを燻してスライスした突板によるもの。木目が不規則に並ぶものの、全体的には調和がとれています。そして木目の表情にアクセントをつけているのが、「白太(しらた)」と呼ばれる白い層。木の表皮に近い柔らかい部分のことです。
「木の中心に近い赤身(あかみ)部分に比べれば、白太は虫に食われやすく、製材の種類によっては切り落としてしまうことも多いんですね。当社がお願いしている山の麓の製材所では、原木の伐採後すぐに燻蒸やスライスをしてもらうことで、白太入りの突板の鮮度が保たれています」と話す安多さんは、自ら山に入り、木を探すことも。そのほとんどが、流通にのらないような規格外の木材だといいます。
安多化粧合板は1959年に創業。当初は、家具調家電の化粧合板を手掛けていました。その後需要の変化に応えるべく、住宅内装用に移行。年輪が平行に並ぶ柾目(まさめ)、美しいタケノコ形の板目といった木材が主に銘木として流通していたこともあり、このような均整のとれた木目の突板化粧合板を長年製造していたそうです。しかし転機が、今から20年ほど前に訪れます。
「輸入木材におされ、日本の林業は振るわなくなっていました。山は荒れ放題。林地残材が溢れ、規格外の木々が残される状況を無視できなくなったんです。各地の山師さんに、使い物にならない木を切ってもらい、我が社で引き取り、個性的な内装向けの化粧合板を考えて各物件に売り込みました。そしてその利益を山師さんに還元するという活動を始めたんです。木目が不揃いでも、突板の組み合わせを工夫することで、味わい深い上質な空間が生み出せる。木目にクセのある広葉樹を多用する、ヨーロッパの木材文化を参考にしました」
以来、安多さんは各地の山師や製材所と綿密に連携して、当時は突板として見向きもされていなかった木材も入手するようになります。そのひとつが、北海道の大雪山で採れるナラの木です。

木の特性を熟知し、活かす。

MITSUI HOME PREMIUM駒沢レジデンスの大雪山産ナラを使用したテレビボード。

ナラは、クリーム色の木肌にくっきり白太が入り、木目には力強い印象があります。従来の突板加工では、スライス後の木を安定させるために丸太を茹でる工程が入りますが、同社が委託する製材所では生木のままスライスしています。これは、木の繊維を壊さないようにするため。スライス後は、波打った突板となりますが、無垢材のような質感が保たれるそうです。しかし、突板が波打っている分、基材への貼り付けに手間と時間がかかります。同社では、突板をカットし糊付けしてから、アイロンを使った手作業を入れます。この時、貼り合わせ位置に微妙なゆとりを設けているとか。プレス機による最終圧着後の完成形を想定した、職人の経験と勘を要する高い技術が垣間見られます。

節も意匠のアクセントに。節の穴には、同材の木片をナイフで埋めていく。

プレス機にかけ圧着した後、余分な部分は手作業でカット。

突板をチェックする社長の安多茂一さん。

「実をいうと、最も時間がかる工程は、突板をどのようにカットして組み合わせるかを考える段階です。白太の位置や木目の組み合わせひとつで、全体のイメージが変わってくる。職人全員で話し合い、依頼主のイメージに近づけていきます」
こうして完成する化粧合板は、唯一無二の表情をたたえることになります。その選択肢となる突板の樹種は、実に多彩。工場の向かいには、モダンな木造のショールームも建てられています。陳列された見本の来歴を聞くと、想像を超える意外なものも。突板に備わる無限の可能性を感じさせてくれます。>>次回へ続く。

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