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01.

オーセンティックな鉄の工芸

ロートアイアン

ヨーロッパの伝統ある鉄の装飾文化

日本語で「鍛鉄」や「錬鉄」とも訳されるロートアイアン(Wrought Iron)は、ヨーロッパの文化として発展してきた伝統的な鉄工芸である。海外では古くから建築のオーナメントとして使われ、門扉やフェンス、表札、看板などのエクステリアから、階段手摺やパーティション、家具などのインテリアに多用されてきた。
ロートアイアンの「Wrought」とは「Work」の過去形、過去分詞を表す古い単語で、Wrought Ironという言葉には、人間が赤熱した鉄をハンマーで鍛えて造形していくイメージが表現されている。

多くの金属は融点で瞬間的に溶ける性質を持つ。しかし鉄は、熱せられて一定の温度に達すると徐々に軟化しはじめ、やがて融解していく。この軟らかくなった状態を利用して、鉄を自由に曲げたり伸ばして造形するロートアイアンの技術が生まれた。現代ではエアハンマーや油圧式プレスなどを使い、部分的に効率化が図られているものの、繊細な加工や造形は熟練の職人技なしにはつくることができず、プリミティブなロートアイアンの技術が本質的に変わることなく今に伝えられている。

鉄が建築の領域に本格的に用いられるようになったのはルネサンスの時代である。教会のインテリアや装飾にも多用され、バロックやアールヌーボー、アールデコなど、次々と興る新たな建築様式に伴い、ロートアイアンも新しいスタイルやデザインが生まれていった。

日本におけるロートアイアンの先駆者

日本においても明治の初めに西洋建築が導入され、ガラスやレンガ、タイルなどの建築材料が次第に国産化されていく。だが、手工業的で装飾性の高いロートアイアンは工業化に適さず、本格的に日本に根付くことはなかった。そんなロートアイアンに着目して日本でいち早く導入し、特化した専門分野を確立した老舗企業が「よし与工房」である。

「よし与の創業は1684(貞享元)年と伝えられています。当初は簾屋を営み戦前まで続いていましたが、1940(昭和15)年の七・七禁令(奢侈贅沢品の製造・販売を禁止する省令)によって、一旦廃業に追い込まれました」と社長の橋本正一さん。その後、戦前から手がけていた竹細工や蒲簾など、和菓子の包装関連材の商売を展開。前社長の南澤弘さんの代に竹籠から籐籠へ転換し、それが後に店頭ディスプレー用のパン籠へと発展して国内ベーカリーで9割以上のシェアを誇る。

「パン関連ディスプレー事業が軌道に乗り、海外視察などで何度かヨーロッパを訪れた南澤は、そこで建築と深く関わっている鉄の装飾品、つまりロートアイアンに関心を持ち始めたのです。そしてまずは知識として学ぶ必要があると思い、非常に多くの本や資料を集めました。おそらく弊社はロートアイアン関連の蔵書数で世界一だと思います」と橋本さん。
折しも、ロンドンで工芸家を援助するNPO法人とヴィクトリア・アンド・アルバート博物館が主催するアーティスト・ブラックスミス(美術志向の鍛冶屋)の世界会議が開かれ、南澤さんはご子息とともに参加し、そこでロートアイアンに関する多くの知識を得た。

伝統ある職人技を活かしたものづくり

ロートアイアンの文化はわが国にはないが、日本には古くから鉄で刀や農機具をつくる鍛冶職人や、仏具をこしらえる職人がいる。さらには鉄以外の素材を使った、繊細で高品質な工芸品を生みだす文化的な土壌もある。南澤さんはこれらふたつを合わせてロートアイアンづくりに応用した。加えて、自身もデザイナーとして一線に立ち、後に数々の作品を生み出していく。

だが、当時はロートアイアンと言っても誰も分からないため「鉄の工芸」と称して展示会を開催。昭和の皇室アルバムには「鉄の工芸を熱心にご視察になる両陛下」という見出しで、皇太子ご夫妻と南澤さん、よし与工房の職人達の写真と文章が掲載されている。
「一番最初の受注は、大阪ロイヤルホテルのレストランの扉でした。当初は関西の建築設計会社などからの受注が多く、それからどんどん全国に広がっていきました。欧米にはない日本的なデザインが前衛的であると、ヨーロッパでも評価されました」と語る橋本さんも、かつてはデザイナーとして実際に図面を書いていたという。

「デザインして図面を書くのは簡単ですが、それを鉄で実際の形にしていくのが難しいのです。職人からは私のデザインは難しく、こんなものできるかとよく言われたものです」と語るが、もちろん常に双方が密に打ち合わせを重ね、創意工夫と熟練の技でデザインを実現させていく。「つくるものはすべてオーダーメイドで毎回違うため、そのたびに使う工具も自分で工夫してつくらなければなりません。鉄を叩いているときは、どうすればデザインどおりになるか一瞬で決める必要があります。そのため、自分で判断してより良い方法をとる場合も多いですね」と語るのは、28年の経験を持つベテラン職人の斉藤幸治さん。よし与工房の高度な手工芸の技を支える要のひとりだ。

正統なロートアイアンへのこだわり

「私たちはお客様から求められているものに100%お応えしたい。そのためには求められているものを明確にしたいのです。他社の既製品カタログを提示され、同じものをつくってほしいと言われたことがありますが、それならカタログの製品を購入してくださいと申し上げました。すでにあるものを望まれるなら、そちらを購入した方が理にかなっているでしょう。もっとも、何もない状態から望まれるイメージをデザインするのはとても困難です。その点、うちには今まで提案してきた非常に数多くの図面があります。それらを元に、たとえば見本の花の形を蘭にしたいといった要望があるわけです。そうしたイメージを形にするのは容易ではないのですが、完成したときにはとても喜んでいただけました。思い起こすと、苦労したり難しかったものほど仕事の面白さを感じましたね」と橋本さん。

洋風スタイルが多くなってきた日本の住宅において、近年ではロートアイアンも認知度が高まってきている。しかしながら、市場にはアルミの鋳造品や輸入パーツを組み合わせた製品も多い。そこでよし与工房は、正統なロートアイアンを世の中に紹介するため、日本最大の住宅・建材の展示会「ジャパンホームショー」に3年前から出展している。それが三井ホームと出会うきっかけともなった。高品質なオーダーメイドでお客様のニーズに100%応えること。三井ホームと共鳴するポリシーを掲げるよし与工房は、公共的建築から個人邸まで、歴史ある鉄の装飾文化で人々の心を満たしていく。